大阪地方裁判所 平成12年(モ)90041号 決定
再生債務者 高橋ビルディング株式会社
申立人(監督委員) A
申立代理人弁護士 阿多博文
同 木村真也
相手方 株式会社整理回収機構
代表者代表取締役 鬼追明夫
相手方代理人弁護士 山川元庸
同 大西悦子
同 増市徹
同 増田勝久
同 田仲美穂
主文
1 相手方は、申立人に対し、金15億4129万円及び別表弁済額欄記載の各金員に対する同表の当該金員に対応する弁済日欄記載の弁済日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 申立費用は相手方の負担とする。
理由
第1申立ての趣旨
主文と同じ。
第2判断
1 再生債務者が、相手方に対し、別表1から14までに記載のとおり、合計15億4129万円を弁済したことは争いがない(なお、以下においては、別表1から14までに記載の各弁済を総称して「本件弁済」ということがある。)。
2 そして、争いがない事実に加え、一件記録等を総合すれば、以下の事実を認めることができる。
(1) 申立人は、否認権の行使権限の付与を受けた再生債務者の監督委員であり、相手方は、平成8年7月26日、特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法に基づいて設立された株式会社である(なお、相手方は、平成11年4月1日、株式会社整理回収銀行を吸収合併し、商号を株式会社整理回収機構に変更した。)。
(2) 再生債務者は、不動産の賃貸等を業とする資本金1億円の株式会社であるが、平成5年3月末日の決算において約170億円の債務超過となり、資金繰りに窮するようになり、金融機関からの借入金の返済もできない状態となったため、平成7年3月ころ、各金融機関に対し、「再建計画支援のご依頼について」と題する書面を交付して、担保物件の任意売却までの元本及び未払利息の支払猶予等を申し入れ、さらに、平成8年3月ころ、日本住宅金融株式会社(以下「日本住宅金融」という。)を除く金融機関に対しては、1年間に残元本の1.5パーセントを、日本住宅金融に対しては、相手方に債権譲渡されることを見越して、月額1619万6000円(1年間に換算すると残元本の約3パーセント)を返済する旨申し入れた。
(3) ところが、日本住宅金融から再生債務者に対する約111億円の貸金債権を譲り受けた相手方が、平成8年12月ころ、再生債務者に対し、全額の返済を要求したため、再生債務者は、相手方に対し、平成3年度から平成7年度までの決算報告書、資金繰表、所有権不動産明細書等を交付して経営状態を明らかにするとともに、担保不動産を任意売却して売却代金を返済に充てること、及びこれまでの月次返済額に50万円を上乗せした月額1669万6000円を支払うことを内容とする返済計画を提示した。そして、再生債務者は、平成9年6月ころ、日本住宅金融が担保権(被担保債権額47億円)を設定していた不動産を売却して10億円を相手方に返済し、相手方から37億円の債権放棄を受けた。しかし、相手方が、その後も返済額の増額を要求してきたことから、同年8月ころ、再生債務者は、清算貸借対照表(甲6)を示して月額1600万円余りの返済が限界である旨説明したものの、相手方が納得しなかったため、同年9月から月額2000万円を返済することになった(なお、再生債務者は、平成10年5月ころにも、担保不動産を売却して1億0200万円を相手方に返済している。)。
(4) 再生債務者は、平成10年3月末日の決算において、約153億円の債務超過の状態にあり、借入金残高も約1600億円に達しているにもかかわらず、相手方を含む各金融機関に対し、平均して年間残元本の1.05パーセント程度の返済しかしていなかった。再生債務者がこうした状態にあったなか、相手方は、平成10年7月30日ころ、再生債務者がその営業上賃借人に返還する保証金の原資に充てる予定にしていた7億円のマネー・マネージメント・ファンドの仮差押えをした上、同年8月11日、再生債務者に対して約58億円の支払を求める貸金返還請求訴訟を大阪地方裁判所に提起した。そこで、再生債務者は、大阪簡易裁判所に調停を申し立てることなどにより相手方と交渉を重ねたが、相手方が再生債務者所有の別紙物件目録1から6までに記載の販売用不動産(以下「本件不動産」という。)等に対して仮差押えをし、再生債務者からの提案にも応じないため、相手方が要求していた15億円の返済に応じざるを得ないと判断し、同年12月26日、相手方との間でその旨の覚書を取り交わし、さらに、平成11年2月6日の調停期日において、改めて相手方と同旨の合意をした。そして、再生債務者は、これらの合意に基づいて、別表番号1から10までに記載の各弁済(合計15億円)をした。
(5) その後、相手方は、平成11年3月23日ころ、株式会社兵庫銀行が再生債務者に対して有していた約18億円の貸金債権を譲り受け、再生債務者に対し、同年4月ころ、これを5年間で返済すること及び当面月1100万円を返済することを要求し、同年6月28日ころには、約18億円全額の支払を要求するに至った。しかしながら、再生債務者は、前記(4) のとおり、相手方に既に15億円を返済していたこともあって、これに応じることができず、同年7月には、清算貸借対照表(甲15)等を示して、返済額及び返済方法について相手方と交渉を重ね、同年11月22日、担保に供していない販売用不動産を売却し、相手方に対し、別表番号11記載のとおり、1600万円を弁済した。
(6) さらに、相手方は、前記(5) の弁済に先立つ平成11年11月16日ころ、本件不動産につき再度仮差押えの申立てをし、同月24日ころ、その命令を得た上、前記の約18億円のうち、約7億円を5年間で返済し、履行確保のために新たに担保を提供することを要求した。再生債務者は、相手方の要求を拒否することができず、平成12年1月12日ころ、相手方との間で、本件不動産につき、相手方のために根抵当権を設定するとともに、月額873万円を返済する旨合意し、別表12から14までに記載の各弁済(合計2619万円)をした。
(7) 再生債務者は、平成12年4月7日、再生手続開始の申立てをし、同日、再生手続開始決定がなされた。そして、監督委員に選任された申立人は、否認権の行使権限の付与を受けた上、同年6月23日、本件否認の請求をした(なお、申立人は、本件において、本件不動産につき相手方のためになされた根抵当権設定登記について否認の登記手続を求める請求をしていたが、相手方は、平成12年10月18日に開かれた口頭弁論期日において、これを認諾した。)。
3 以上の認定事実によれば、再生債務者は、平成10年3月ころには、営業活動は継続していたものの、金融機関からの極めて多額の借入金の返済に窮し、各金融機関に担保物件の任意売却までの元本及び未払利息の支払猶予等を申し入れ、年間平均して残元本のせいぜい1パーセント程度の返済をしていたものに過ぎず、その財務状況は明らかに逼迫しており、このような事情は、本件弁済の各時点を通じて継続していたというべきである。すなわち、再生債務者の経営状態は危機的状況にあったと認められ、このような状況の下でなされた本件弁済は、その方法及び弁済額等に照らし、他の再生債権者を害する偏頗弁済というほかない。
この点、相手方は、会社の総資産額に占める欠損金の割合が再生債務者よりも高い会社が数多くあるなどとして、本件弁済当時、再生債務者が実質的危機時期にあったといえない旨主張するが、再生債務者の経営状態は前記認定のとおりであって、相手方の主張をもってしても覆すに足りず、他にこれを左右する証拠もない。
4 そして、前記認定の再生債務者の経営状態及び財務内容、本件弁済に至る経緯等に照らせば、再生債務者は、本件弁済が再生債権者を害するものであることを知っていたことは明らかであり、また、相手方も、再生債務者の経営状態及び財務内容を把握した上、他の金融機関に対する借入金の返済状況を認識しながら、再生債務者に積極的に働きかけ、本件弁済を受けたものであることが認められ、これによれば、相手方も本件弁済が他の再生債権者を害することを認識していたというべきである。
相手方は、様々な事情を指摘し、本件弁済について詐害性の認識がなかったと主張するが、以上の認定を覆すに足りる証拠はない。
5 したがって、本件弁済は民事再生法127条1項1号に該当するものというべきであるから、申立人の本件請求は理由がある。
(裁判長裁判官 森宏司 裁判官 河合裕行 裁判官 小海隆則)
別表・物件目録<省略>